『遊天荘』の復興・維持を行いながら、武道や空手道を通じた江上茂の教えを後世に伝えます

君影草 完全版 第1章 第5話 『新居へ』

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新居
沼袋の新居

何と云っても私達の出発は普通でなかった。慌しく四日夕暮れに門司港行きの列車に乗った。乗り込んだものの席は無く、私達はデッキにトランクを置いて座った。折角二等切符を持っているものの、三等にも座れない。今なら新幹線もあるし、座席指定の便もある。関門トンネルもまだ出来ていなかったから、門司港から連絡線に乗り込むため、大きな荷物を下げてふうふう走らなければならなかった。こんな新婚旅行ってあるだろうか。又新年早々で帰省客も多かったのだろう。
 やっと下関に着くと、列車は座る余地もない。もう前発の人達に席は占められている。主人は私を残して姿を消したが、暫くして帰ってくると、うまく寝台車が取れたと云う。無茶苦茶なチップを渡して手に入れたらしい。向かい合いの二段ベットにたどり着いて、ほっとすると、急に疲れが出て、眠<なった。夜が白々と明け初める頃、もう瀬戸内海も神戸近くまで来ているらしい。停車時間も長くて、客はプラットホームに降りて、腰を伸し、又ゆっくりと洗面が出来る程であった。車掌が来てベッドを上げるとあとは座席も広く、ゆったりと旅の気分である。
 食堂車の知らせがあると、後部の車から一人の男の人か来て、食堂に行きましょうと云う。役所の同僚とか云う事で小倉の人の由、私は二人のあとを食堂車に付いて行った。食事が済んで席に戻ると、主人は彼と一緒に後の車に行って了って私は一人所在なく車窓を眺めていた。この思いやりのない夫に、私はいささかの怒りを感じながら懸命に耐えていた。昼になると、又二人で来て昼食を食べに行くと云う。食欲など出る筈もないが仕方なく付いて行くと、一人一本の清酒がもらえると云うので、私の分も大よろこびで飲んでいる。馬鹿らしくなって私は大方食べ残して、席に帰る。主人は又しても彼の方へ行ってしまう。とうとう私は、東京駅に着くまで一人ぽっちの旅であった。

東京駅に着いて、寒い夜空を一時間あまり世田谷の太子堂という所で降りた。下宿には夫婦と若い女の人二人が居た。

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