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もともと私は、あまり丈夫ではなく、然し身体だけは人一番大きいので、皆からは何処といって病気がありそうなどとは見られたことが無かった。けれど腎臓結核を患って、自然治癒したことにはなっているけれど、根っから自信を持てなかった。
結婚して身体の調子がおかしくて、又咳に悩まされた。夜も寝らない程咳込むので、ウルサイナ、と度々主人から叱られた。あまりひどいので、主人が軍医に相談したとかで、吉原さんがその薬を持って来てくれた。丁度奥さんも心配して来てくれていたので、奥さんに私に飲む様に云い置いて帰って行かれた。(阿片叱根錠)という薬であった。見えない位の芥子粒のような錠剤が三つ、薬袋紙を開いたら出て来た。こかんなちいさな薬で効くのかしら?と私は三錠を飲んだ。
暫すると、急に眠気が催して、居ても立ってもいられなくなった。床の中にあわてゝもぐり込むと、急速に地の中に引き込まれてゆくように意識が朦朧として来た。奥さんが不思議な顔をして何か覗いているのはの分るのだが、口がもつれて物が言えなく人なっていた。唯、ワアワアと言っていたらしい。
奥さんは、おろおろするばかりでどうする事も出来なかったらしい。其処へ主人が帰って来て「どうした?ええっ 三錠も飲んじゃった?馬鹿野郎」と怒鳴り、慌ててとび出して行った。それからの事を私は知らない。真夜中、眼がさめると、主人が私の顔を覗き込んでいる。
「眼がさめたか、驚いたなあ、軍医に電話したら、まだ生きているなら大丈夫でしょう、と驚かしやがった。全く呆れた奴だ、バカメ」