『遊天荘』の復興・維持を行いながら、武道や空手道を通じた江上茂の教えを後世に伝えます

君影草 完全版 第1章 第12話 『大牟田へ帰るまで』

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後ろはすぐ下の弟 常茂さん

私達はとうとう親になってしまった。当然のことなのだが、家の中に子供が一人増えただけでも、何とこう変って来るのだろう。一週間で退院した時は、「オイ、いい名前つけて載いたぞ」と満面に笑みをたたえて迎えに来てくれた。

吉原さんが「尚志」タカシと言う名を考えて下さった。志を尚(タットぶ)という意味だそうで、いい名だ、いい名だと有頂天である。ナオシ、ヒサシなど呼ばれて将来は困ったのだが、何時も大きな声で「エガミ、タカシ」ですとはっきり答え驚かせたものだった。いい名だと私も思った。妹がお七夜の用意をしてくれていた。吉原さんも見えて、神棚に主人の書いた半紙が下げられた。

「命名、江上 尚志 昭和一七年十月六日生、父 茂 母 千代子」誇らしい私だった。何しろ離縁されなくて済んだだけ嬉しかった。

尚志は順調に育ってくれたし、私の乳はまるで泉のように湧き出て、乳が張って切ない位であった。妹もお宮詣りを済ますまで居てくれたし、大家の小母さんが、お宮詣りに尚志を抱いてくれて、沼袋の駅の近くの神社で、祈念をして戴いた。

子供が生れたら、俺の世話がおろそかになったゾ、と主人は嫌味を言うのだけれど、たしかに主人の靴下継ぎをする夜になると、疲れて間に合わなかったり、井戸端でおむつを洗っていると、泣き止まぬ尚志に、いらいらした主人の目に合い、ぶざまな自分を感じた。

しかし一日毎に大きく可愛いくなると、お隣の高石さん夫妻が借りに来て、散歩に連れて行ってくれたりした。私は其の間に仕事を片付け、帰って来る尚志に乳を濡らせて待つ日が多かった。

暫ぶりでトラちゃんが来た。尚志を可愛いい可愛いいと抱いていたが、「兄貴よ」と、主人に向って少し金借してくれないかなと言う。どうしたんだ、と主人が聞くと、妹が九州に帰るから、貞子さんも連れて、一晩泊りで犬吠崎に行って来たい、と言っている。フン と主人は言いながら、出してやれよ、と私に言う。何という人、と私は腹の中で呆れて、さからえば怒られるし、言われるままに金を渡したが、あとあとまでくやしくて、さらりと忘れる事は出来なかった。
 今もって、犬吠崎と言うとその時の事を思い出し自分の執拗さにいやけがさす。私は一生涯、犬吠崎には行きたくない。でも戦死したトラちゃんの、みち代さんや、貞子さんのため、一晩泊りの旅行をさせてやりたいと、切羽つまって、主人の所に来たのだろうと思いたい。貞子さんをトラちゃんは好きなのだ。

案の丈暫くすると、トラちゃんが、貞子さんと結婚したいから媒酌をしてくれと、頼みに来た。彼は月給も少いし、貞子さんの家は反対なのでなかなかむづかしかった。しかし何が何でも結婚しなければならぬ訳がありそうであった。其処で主人は、空手を教えていた一団体をトラちゃんに譲る事にした。

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