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スペインから帰ったあたりから、目に見えて主人が弱って来た。
何しろ日韓航空で行ったので、一度ソウルに行き其処より出発した。帰りもそうであった。
その前年、日韓航空は、ソ連の上空を侵犯したかどで、爆破されたから、日韓航空はいやに慎重で、随分時間がかかった。はじめパリのオルリー空港に着いだのだが、主人の顔は疲れで白け切っていた。ああ来なければよかった、と私は心の内で後悔した。夢の国スペインと聞いて、はしゃいだ私は罪を犯した様な気持ちがした。
「これで又帰る事を思うと、ゾーっとする。俺はもう来んぞ」
と主人は疲れ果てていた。パリから又、マドリードまで、本当に長旅であった。
「お前、来たかったらこれからは一人で来い」
思いがけぬ事を主人は云う。ほんの其処までだって、留守番が出来ない人が何て事を云うのだろう。私は思わず笑ってしまった。
「貴方と一緒じゃなきゃいやですよ」