君影草 第2話 婚約

 Nさんは、三日続けて早朝からやって来た。伯父達は、つり合はぬは不縁のもとと頭からきめつけ、その前から望まれていた別の縁談を、早く決めるように私に迫った。
 天から降って来た様な話に、私はとまどいを感じながら、それでも伯父の誘める方には、もともと嫁ぐ気がなかったから、少しづつNさんの持って来た「江上」といふ、えたいの知れぬ人に興味を持ち始めていた。第一に東京に住んでいるといふことが、魅力であった。Nさんは全くいい加減な人で、仲人口は平気で聞くといふ噂があったので、あぶないな、といふ気がしないでもない。私は身上書や写真を見せてくれと頼んでも、一向に持って来てはくれないし、れいの調子で
 「心配なかですタイ お似合いですタイ」の一点ばりである。私の写真はとっくにばら撒かれてあるらしいから、先方は見ているに異ひない。だから先日も、Nさんが彼を連れて来たのだらう。両親も亦、その上で私を見に来たに異ひなかった。

昭和14年当時

昭和14年当時

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